ブックカタリスト第一回の倉下メモ

『ダーウィン・エコノミー』まわりで話したことなど

▼経済学の流れ

アダム・スミスは、市場における効率性の良さを発見しました。全体を管理する統一的な視点がなくても、市場に参加する各プレイヤーが周りの状況を理解し、自分にとっての利益を追求することで、結果的に資源の適切な分配が実現されてしまう。そうした思想が経済学という学問の嚆矢でした。小さな政府を志向し、個人の自由を求める思想(リベラリズム)もこの潮流に合流しています。

とは言え、現実の社会を見ると、自由市場だけですべてうまくいっていることはなく、価格の偏りや失業率の高まりなどが発生していました。そうした問題を解決するために、後続の経済学者たちは「市場」についてさまざまな考察を加えていったのです。

特にジョン・メイナード・ケインズの、公共投資によって需要を喚起する考え方はケインズ政策として現代にまで影響を与え続けています。また、デヴィッド・リカードが考察した労働価値説は後のカール・マルクスへと引き継がれ、資本主義の詳細な考察に結実しています。

重要なポイントは、人間の決定は合理性だけで行われているわけではない、という点で、既存の効率を最重要視する至上では、「各プレイヤーが周りの状況を理解し、自分にとっての利益を追求すること」が適切に達成されていないことにあるのだろう、と倉下は考えています。

私たちは、自分の利得を最大化するばかりではなく、馴染みの人を贔屓したり、他者に共感して損を覚悟する決定を下すことがあります。アダム・スミスが見据えていたのは、そうした「人間臭い」参加者であり、数字だけで動くプレイヤーではなかったのでしょう。

行動経済学を含めて、人間の自利性と利他性の両方を見据えた市場の設計が今後の課題となりそうです。

▼人物

チャールズ・ダーウィン。1809年2月12日 - 1882年4月19日。イギリスの自然科学者。『種の起源』は1859年11月22日。

アダム・スミス。1723年6月5日 - 1790年7月17日。イギリスの哲学者、倫理学者、経済学者。倫理学書『道徳感情論』(1759年)。経済学書『国富論』(1776年)。「見えざる手」(全体を見渡さない部分知による自利的な行動でも全体の最適を導くという概念)への言及。レッセフェール(自由放任主義)に強い影響。

デヴィッド・リカード。1772年4月18日 - 1823年9月11日。自由貿易を擁護する理論を唱えたイギリスの経済学者。労働価値説はマルクスにも影響。

ジョン・スチュアート・ミル。1806年5月20日 - 1873年5月8日。イギリスの哲学者。1848年『経済学原理』。1859年『自由論』。自由とは国家の権力に対する諸個人の自由であり、これを妨げる権力が正当化される場合は他人に実害を与える場合だけに限定され、それ以外の個人的な行為については必ず保障される(危害原理)。

カール・マルクス。1818年5月5日 - 1883年3月14日。ドイツ・プロイセン王国出身の哲学者、思想家、経済学者、革命家。1848年『共産党宣言』。1867年『資本論』(1巻)。

マルセル・モース。1872年5月10日 - 1950年2月10。1942年『贈与論ーアルカイックな社会における交換の形態と理由』。市場経済以外の経済活動へのまなざし。

ジョン・メイナード・ケインズ。1883年6月5日 - 1946年4月21日。イギリスの経済学者。1936年の著作『雇用・利子および貨幣の一般理論』。「アニマル・スピリット」(経済活動にしばしば見られる主観的で非合理的な動機や行動を指す)への言及。

ジョージ・アカロフ。1940年6月17日 - 。アメリカ合衆国の経済学者。『不道徳な見えざる手』、『アニマルスピリット』など。

▼用語

リベラリズム:

個人の自由と責任を重視する思想。自由主義。

リバタリアニズム:

個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する、自由主義上の政治思想・政治哲学の立場。

パターナリズム:

温情主義、父権主義。政治思想においては、強い立場にあるものが弱い立場にあるものに強制的に介入することを肯定する思想。

リバタリアン・パターナリズム(ナッジ):

リバタリアン的な立場を取りつつも、人間はそのままでは非合理的な決定をしてしまう傾向があるので、良い選択ができるように選択的な環境に介入することを肯定する思想。強制するのではなく、複数ある選択肢のうち、望ましいものが選ばれやすくするものを指す。また、そのための手法をナッジと四分。

→『実践 行動経済学』(リチャード・セイラー)2009 日経BP

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共有地の悲劇(Tragedy of the Commons):

アメリカの生物学者、ギャレット・ハーディンが1968年に発表。皆が共有している資源は、他の人に使われると自分が得できないので、誰も彼もが資源を浪費し、最終的に全員が損するような結果を導いてしまうという概念。

→ゲーム理論

危害原理:

ある個人の行動の自由を制限する (=干渉する)際に、唯一可能なのは、その個人が他人に対して危害を加えることに抵抗することだけである、という考え方。自由主義を支えている概念。

→『自由論 (岩波文庫) 』(ジョン・スチュアート・ミル)2020 岩波書店

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マーケットデザイン:

自由市場ではうまく解決できない「マッチング」の問題(たとえば臓器移植など)を、市場のより良いデザインで解決しようというアプローチ。

→『マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学 (ちくま新書) 』(坂井豊貴)2013 筑摩書房

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→『Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学』(ルビン・E・ロス) 2016 日経BP

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