今回は『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』を取り上げました。
本書は二人とも読んでいた本だったので、いつもとは違ったスタイルになっております。
書誌情報
著者
ラッセル・A・ポルドラック
スタンフォード大学心理学部教授。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にてPh.D.を取得。2014年より現職。人間の脳が、意思決定や実行機能調節、学習や記憶をどのように行っているのかを理解することを目標としている。計算神経科学に基づいたツールの開発や、よりよいデータの解釈に寄与するリソースの提供を通して、研究実践の改革に取り組んでいる。著書にThe New Mind Readers What Neuroimaging Can and Cannot Reveal about Our Thoughts(Princeton University Press, 2018)がある。
翻訳・監訳
児島修(訳)
英日翻訳者。1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。主な訳書に『サイコロジー・オブ・マネー』(2021)『DIE WITH ZERO』(2020、以上ダイヤモンド社)、『ハーバードの心理学講義』(2016、大和書房)など。
神谷之康 (監訳)
京都大学 大学院情報学研究科・教授、ATR情報研究所・客員室長(ATRフェロー)。専門は脳情報学。奈良県生まれ。東京大学教養学部卒業。カリフォルニア工科大学でPh.D.取得。機械学習を用いて脳信号を解読する「ブレイン・デコーディング」法を開発し、ヒトの脳活動パターンから視覚イメージや夢を解読することに成功した。SCIENTIFIC AMERICAN誌「科学技術に貢献した50人」(2005)、塚原仲晃賞(2013)、日本学術振興会賞(2014)、大阪科学賞(2015)。サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)でのピエール・ユイグの展示 「UUmwelt」(2018)への映像提供など、アーティストとのコラボレーションも行う。
出版社
みすず書房
出版日
2023/2/14
目次
第I部 習慣の機械――なぜ人は習慣から抜け出せないのか
第1章 習慣とは何か?
第2章 脳が習慣を生み出すメカニズム
第3章 一度習慣化すれば、いつまでも続く
第4章 「私」を巡る闘い
第5章 自制心――人間の最大の力?
第6章 依存症――習慣が悪さするとき
第II部 習慣を変えるには――行動変容の科学
第7章 新しい行動変容の科学に向けて
第8章 成功に向けた計画――行動変容がうまくいくための鍵
第9章 習慣をハックする――行動変容のための新たなツール
第10章 エピローグ
簡単な概要
「習慣」とは何であり、それはどのようなメカニズムによって形成されるのか。脳科学や認知心理学の知見をベースにしながら検討される。また、その知見を元にいかにして行動変容を起こすのか、という科学的な視点からの提案もなされる。
随所に「科学的な知見とどのように付き合えばよいのか」という話題が差し込まれていて、ポピュラー・サイエンス的な読み物としても楽しめる。
ポイント
本書は「習慣」がいかにねばり強く私たちの行動に影響を与えるか、という話が主旨なのですが、それとは別に「二つの学習メカニズム」の話が出てきて、倉下の興味はそこに強く惹きつけられました。
一つは、この世界が固定的なものだとしてその世界と効率的に付き合う方法で、習慣が相当します。もう一つは、この世界の変化に対応する方法で、宣言的な(言葉によって表現される)知識として扱うものです。記憶の領域で言えば、前者は手続き的記憶で後者が宣言的記憶に相当するでしょう。
たしかにこの世界はほとんど変化しない部分があり、しかし変化する部分もあります。そして、人類が築き上げてきた文明は概ね変化する部分を増やしてきたと言えるでしょう。そうした状況は習慣的なものだけでは対応できないから、現代では「言葉」の扱いが重要になっている、とも言えます。
この話からは他にもいろいろな教訓が引き出せると思いますが、やはり重要なのは「固定に対応するもの」と「変化に対応するもの」という二区分で、しかもそれらを一つのシステムの中で組み合わせて使う、という視点です。
静的なものと動的なものの両方が必要で、しかもそれらを支えるメカニズムは違っている。そのように捉えると物事の構図はもっと立体的になっていくでしょう。
私たちはついつい単一の原理性で物事を片付けたくなりますが、解像度を上げればそこにはさまざまなベクトルが働いています。その観点は忘れないようにしたいものです。
Share this post