倉下メモ
全体的にねじれた印象を覚えた本でした。まず、きわめて有用な本という印象。それでいてなんだか読みにくいという印象。目次を見ても、何が書いてあるのかはわかるのですが、それら一つひとつの文章が全体においてどういう位置づけを持ってくるのかがわかりませんし、また実際に読んでいてもこの話は全体の趣旨にどう貢献しているのかが掴みづらい感じがずっとしていました。
逆に、これらの章がWebに置かれていて、目次がindex.htmlだったらそこまで違和感はなかったかもしれません。興味があるページのリンクを踏んで読んでいく、というスタイルならむしろ抜群にハマりそうな気がします。
でもってこれが、「ネットワーク型」ということの意義であり、たぶん私たちの脳の自然なスタイルでもあるのでしょう。言い換えれば、情報に構造を与えるというのは「人工的」な行為なわけです。
しかし倉下は、(一応プロの物書きとして)そうした人工さが必要ではないかと感じた次第です。
でももしかしたら、それは古い考えなのかもしれません。全体の中から興味がある部分を読み、それ以外の部分は簡単に済ませる、というのが「技術書」にとっては必要な形式なのかもしれません。むしろ、著者が強い構造を作ってしまうのは──つまり、はじめからおわりまで読まなければ意味が取れない文章を作るのは──ひどい押しつけなのかもしれません。
とはいえ個人的には、少しずつ読み進めていくうちに、読み手の脳内に構造ができてきて、おおぉそうか!と楽しめるような、一種小説的な本が(技術書であっても)好きだったりします。これはもう、サガというか欲求にすぎないので普遍性を論じるものではありませんが。
でもまあ、「考える上で、書くことは欠かせない」という話はとても大切だと思います。英語なので若干近寄りがたいと思われる人は、2021年7月に発売予定の倉下の新刊にも似た話が出てきますので、そちらもご期待ください(突然の宣伝)。
ちなみに「Zettelkasten」は、カードボックス、という意味でした(倉下の勘違いでした)。
次の本の候補
前回も候補として挙げましたが、読み終えた上でやっぱり紹介したい気持ちが強まっていますので、こちらにしようかと思います。
ただこの本もめっちゃ面白いですし、サンデル本と共時するようなテーマもあるので可能なら両方に言及してみたいと思います。無理なら、この本だけでも一回使いたいくらい面白い本であることは書いておきます。