前回に続いて今回も二人共が読了した本です。
紹介しようしようと思いながら、なかなか全体がまとめきれないので時間がかかってしまいました。非常にエキサイティングで、抜群に知的好奇心が刺激される一冊です。
書誌情報
原題
『THE LANGUAGE GAME:How Improvisation Created Language and Changed the World』
著者
モーテン・H・クリスチャンセン
デンマークの認知科学者
米コーネル大学のウィリアム・R・ケナンJr.心理学教授
オーフス大学言語認知科学の教授
ニック・チェイター
イギリスの認知科学者・行動科学者
『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)』
翻訳
塩原通緒(しおばらみちお)
『暴力の人類史』など
出版社
新潮社
出版日
2022/11/24
目次
序章 世界を変えた偶然の発明
第1章 言語はジェスチャーゲーム
第2章 言語のはかなさ
第3章 意味の耐えられない軽さ
第4章 カオスの果ての言語秩序
第5章 生物学的進化なくして言語の進化はありえるか
第6章 互いの足跡をたどる
第7章 際限なく発展するきわめて美しいもの
第8章 良循環――脳、文化、言語
終章 言語は人類を特異点から救う
相手に何かを伝えるため、人間は即興で言葉を生みだす。それは互いにヒントを与えあうジェスチャーゲーム(言葉当て遊び)のようなものだ。ゲームが繰り返されるたびに、言葉は単純化され、様式化され、やがて言語の体系が生まれる。神経科学や認知心理学などの知見と30年におよぶ共同研究から導きだされた最新の言語論。
複雑な眼差し
倉下が作った読書メモは以下です。
本が興味深いのは、提示される捉え方が実に複雑な点です。
たとえば、言語は遺伝子由来という見方を否定します。しかし、遺伝子がまったく無関係ともいいません。人間の生物的な限界(もちろんそれは遺伝子によって規定される)に晒されながら、その人間が使える形で言語は生み出され、また変化していく。そうした言語の変化もまた、遺伝子の自然淘汰に影響を与える。二つの要素が考慮されています。
また、言語が「即興」のジェスチャーゲームであるにしても、そのゲームが「繰り返される」ことで一定の様式や秩序を獲得していく流れが提示されます。即興というのは、「その場限り」や「一度きりの」というニュアンスがあるわけですが、それが繰り返されることで別様に変化していく。ここでは一見するとアンビバレントな要素が組み合わされて新しい概念が生成されています。実に面白いですね。
全体的に、トップダウンの言語生成を否定し、ボトムアップの進化論的言語観が提示されている本書ですが、その射程は幅広く、枝葉がつながる他の本がいくつも見つかりそうです。
Share this post