今回は、『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』
最近読んだ脳関係の本では抜群に面白い一冊でした。
書誌情報
著者
ジェフ・ホーキンス
神経科学者でりながら、起業家でもあるいかにもアメリカっぽい人。1992年にパーム・コンピューティングを設立して、「パームパイロット(PalmPilot)」を開発したすごい人でもある。
翻訳者
大田直子
出版社
早川書房
出版日
2022/4/20
ちなみに、序文はあのリチャード・ドーキンスが書いている。
構成
大きく三部立て。第一部は「1000の脳理論」(座標系理論)について。第二部は機械知能について。第三部は脳と知能から見る人類の未来について。及び遺伝子 VS 知能の構図。
実際の目次は、以下の通り。
目次
序文(リチャード・ドーキンス)
第1部 脳についての新しい理解
第一章 古い脳と新しい脳
第二章 ヴァーノン・マウントキャッスルのすばらしい発想
第三章 頭のなかの世界モデル
第四章 脳がその秘密を明かす
第五章 脳のなかの地図
第六章 概念、言語、高度な思考
第七章 知能の一〇〇〇の脳理論
第2部 機械の知能
第八章 なぜAIに「I」はないのか
第九章 機械に意識があるのはどういうときか
第十章 機械知能の未来
第十一章 機械知能による人類存亡のリスク
第3部 人間の知能
第十二章 誤った信念
第十三章 人間の知能による人類存亡のリスク
第十四章 脳と機械の融合
第十五章 人類の遺産計画
第十六章 遺伝子VS.知識
おわりに
脳科学、あるいは認知科学の話題としては第1部がすこぶる面白い。AIの現状と未来については第2部で展開され、SF的な「人類が進む道とは?」という大きな問いが提示されるのが第3部。どれも面白い。
「1000の脳」理論
本書に登場する「1000の脳」理論について簡単にまとめる。
まず、脳は増築された建物のように、(進化的に)古い部分の上に新しい部分が作られている。しかし、新皮質と呼ばれる高い知性を司ると言われる部分は、少し構造が異なっている。その全体が「似たような構造」ででき上がっているというのだ。視覚を司る部分と、聴覚を司る部分は「結構似ている」(もちろん、違いもある)。
そのように同じものを大量に作るならば、進化的に長い時間は必要ない。コピペで作っていける。
そのような大量の似た脳の部分(コラムと呼ばれる)が、さまざまな機能を担当している。
しかし、その機能は「刺激に反応して運動を起こす」という単純なものではない。そうではなく、新皮質は「予測」をしている。こういう動きをしたら、こうなるだろうと予測し、実際にその通りになっったときに、非常に素早く行動を起こせるようになっている。そのような状態は進化論的に適応であろう。
その予測を支えるのがモデルである。世界についてのモデル。
「こうしたらこうなる」という理路があるからこそ、予測が可能となる。モデルなしでは予測はできない。私たちの脳は、常にそのモデルを学習している。適切に予測するために。
そのモデルが「座標」を使っている、というのが本書の大きな胆。座標があるからこそ、多様な動きに応えるモデルが構築できる。
この座標は物理的な存在の理解だけでなく、概念的なものの理解にも関わっている。私たちの概念的なものの学習においても「座標」が重要だ、という点からいろいろなことが考えられるだろう。
改めて知能とは?
私たち人間は、知的生命体である。生きている限り、私たちの脳は外界について学習し続けている。生きている限り、変化が起こりうるからだ。
脳は学び続ける。
よって知能とは、「変化し続ける世界に対応する能力」だとプラグマズティックに定義することもできるだろう。
今「独学」が盛んであるが、そのように「強いて」行わなくても、脳は学習しているのだ。勉強が不得意だといっても、大きなスーパーに何度か通えば配置を覚えるし、人の性格なども把握するし、何をしたら起こられるのかも学んでいく。
人間は学ぶ動物なのだ。
その意味で、「生きる上で特別に必要というわけではないことを学ぶ」というのが"人間"にとっての学習であり、引いてはそれこそが「贅沢な学び」であるとも言えるだろう。
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