今回は、三人の行動経済学者による『NOISE: 組織はなぜ判断を誤るのか?』を紹介します。
上下巻の本ですが、話題が巧みなのでさくさく読める本になっています。
概要
行動経済学では、これまでずっとバイアス(認知バイアス)がフォーカスされてきた。しかし、ヒューマン・エラーを構成するのはバイアスだけではない。ノイズもある。
バイアスが「偏り」だとすれば、ノイズは「ばらつき」となる。そのノイズも、悪影響を及ぼすし、その大きさは想定されているよりもずっと大きい。にもかかわらず、ノイズにはあまり注目が集まっていない。
それはまずプロフェッショナルが下す判断が、統計的に検証されることが少ないので、そもそもノイズが見いだされにくいのと、もう一つには、後から振り返ったときに、私たちは判断が適切であったのだとという物語(因果論的思考)を作りやすいからである。
本書は、そうしたノイズの性質を解き明かすと共に、その具体的な測定方法を明示し、その上でどうすればノイズが減らせるのかの施策を提示している。
論調としては、著者らは「人間らしい」判断ではなく、シンプルなルール、アルゴリズム、機械学習などの判断を用いることを進めている。そうした判断にも課題はあるが、少なくともノイズがない、という点では大きな意義がある。
しかしながら、組織にそうした機械的判断を導入するのは簡単ではない。特に、マネジメント層が行う判断であればあるほどその傾向が出てくる。よって、著者らは人間が判断を下すことを前提とした上で、ノイズの提言に役立つ方法を紹介する。
目次
二種類のエラー
第1部 ノイズを探せ(犯罪と刑罰;システムノイズ ほか)
第2部 ノイズを測るものさしは?(判断を要する問題;エラーの計測 ほか)
第3部 予測的判断のノイズ(人間の判断とモデル;ルールとノイズ ほか)
第4部 ノイズはなぜ起きるのか(ヒューリスティクス、バイアス、ノイズ;レベル合わせ ほか)
第5部 よりよい判断のために(よい判断はよい人材から;バイアスの排除と判断ハイジーン ほか)
第6部 ノイズの最適水準(ノイズ削減のコスト;尊厳 ほか)
まとめと結論 ノイズを真剣に受け止める
ノイズの少ない世界へ
倉下メモ
ポイントは、人間が判断を下すと、避けがたくノイズが生まれる、という点。判断のための具体的な指針が定まっていない対象について、人間は恣意的な重みづけを行うのですが、それが「揺れる」ことによってノイズが生じてしまう。機械的(あるいは官僚的)と呼ばれるような判断でない限り、常にその危険性はつきまといます。
そこで第一として、「人間が判断しない。あるいは機械的に人間が判断する」という方策が出てくるのですが、個人的にはあまり楽しくない方向性です。効率的かつコストも安いでしょうが、逆に言えばわくわくするような面白さがそこにはありません。また、本書でも簡単に触れられていますが、『あなたの支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』で指摘されているような怖さもあります。
今後、プロフェッショナルの判断領域に機械的な判断がどんどん導入されていくだろう流れは止められないでしょうが、そうではない判断領域、もっと言えば個人の人生における判断において、そうした機械的なものを導入するのではない方向性も考えておきたいところ。
その視点から言うと、本書の後半で提示される「尺度」を定めることはおそらく有効でしょう。また、「積極的に開かれた思考態度」は、日常的な情報処理や知的生産活動においても活用できるものだと思います。
どういう施策を取るにせよ、人間の判断にはノイズが入り込む、ということを前提として、まさに本書が提示するように「手洗い」のようにノイズ削減に取り組む、という姿勢が大切なのでしょう。
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