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BC034『啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために』
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BC034『啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために』

『啓蒙思想2.0』

もうすぐ発売の文庫版『啓蒙思想2.0〔新版〕: 政治・経済・生活を正気に戻すために (ハヤカワ文庫NF)』

今回は、これまで紹介してきた本の総まとめというかHub的な位置づけとして本書を紹介しました。

書誌情報

  • 著者:ジョセフ・ヒース

    •  『反逆の神話』

    •  『資本主義が嫌いな人のための経済学』

  • 翻訳:栗原百代

  • 出版社:NTT出版

  • 出版日:2014/10/24

概要

かつての啓蒙思想を1.0と位置づけて、あたかも図書館モデルからグーグルモデルにインターネットが転換したかのように、啓蒙思想もまた2.0へのバージョンアップを果たそう、という提言が為されている。

あらためて「理性」の力やその特徴を確認し、その上で現代の環境を検査し、「理性的なもの」が力を取り戻すためには何が必要なのかが提示される。

倉下メモ

18世紀に盛り上がった啓蒙思想は、一定の成果を挙げたものの現代では若干不利な立場にある。その時代の啓蒙思想は「理性至上主義」とでも呼べるものであり、個人が理性の力を発揮させれば物事は合理的にすべてうまくいく、という考えを持っていたが、実際はその通りにはいかなかった。一つには、理性というものがそこまで大きな力を持っていなかったことにある。その点は、昨今の認知科学や行動経済学において確認されている。

とは言え、私たちの文明は理性によって作られてきたものであり、感情的判断ではなく理性による合理的な合意がない限り成立しないものである。理性を捨てるわけにはいかない。では、どうするか。

著者が目をつけるのは「クルージ」という概念だ。根本的な問題解決ではなく、その場しのぎの「うまくやる方法」。それがクルージなわけだが、たとえば私たちの記憶力を根本的に向上しなくても、ノートを使えば「あたかもそれを覚えていたかのように」振る舞うことができる。脳を変えなくても、ある種の「合理性」を手にできるわけだ。

同様に、私たちそのものをどうこうするのではなく、その環境や道具(それらを外部足場と呼ぶ)を整えることで、力が発揮されにくくなっている理性を復興していこう、という計画が本書の重要なポイントになる。人を教育して理性の力を高めることもたしかに重要だろうが、それ以上に環境に意識を向ける必要があるという問題意識を著者は持っているわけだ。

実際、現代の私たちの身の回りの環境は、理性の力をはぎ取るために躍起になっているといってもいい。まるで魑魅魍魎が取りついて、少しずつ衣服をはがされ、やがては皮膚すらも強奪されてしまうかのような勢いで、注意や認知資源が「ターゲット」になっている。意識的な防壁作りも必要だろうし、またメディアの情報とは距離を置いた対話空間の成立も必要になるだろう。

重要なポイントは、理性は個人に宿るものではない、という点にある。『知ってるつもり』で確認したように、私たち人類は認知的分業によって発展してきた。啓蒙思想1.0が見逃してきたのもその点である(スティーブン・ピンカーも同じ点を見過ごしている)。私たちは、新しい「理性」の理解と共に、その付き合い方もまた構築していかなければならない。

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面白かった本について語るポッドキャスト&ニュースレターです。1冊の本が触媒となって、そこからどんどん「面白い本」が増えていく。そんな本の楽しみ方を考えていきます。