テーマは”「物語」とどう付きあうか”。以下の二冊を取り上げました。
二冊の書誌情報
『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』
著者
ジョナサン・ゴットシャル
ワシントン&ジェファーソン大学英語学科特別研究員
邦訳されているものだと他に『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』がある。
前著にあたる『The Storytelling Animal』は未邦訳。
翻訳
月谷真紀
『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』も訳されています。
出版社
東洋経済新報社
出版日
2022/7/29
目次
序 章 物語の語り手を絶対に信用するな。だが私たちは信用してしまう
第1章 「ストーリーテラーが世界を支配する」
第2章 ストーリーテリングという闇の芸術
第3章 ストーリーランド大戦
第4章 「ニュース」などない。あるのは「ドラマ」のみである
第5章 悪魔は「他者」ではない。悪魔は「私たち」だ
第6章 「現実」対「虚構」
終 章 私たちを分断する物語の中で生きぬく
『物語のカギ : 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』
著者
渡辺 祐真/スケザネ
東京のゲーム会社でシナリオライターとして勤務する傍ら、2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。
YouTubeチャンネル「スケザネ図書館」主催。
『季刊 アンソロジスト』『スピン/spin』
出版社
笠間書院
『“深読み”の技法』(小池陽慈)という本も
出版日
2022/7/27
目次
はじめに
序章 なんで物語を読むのか? 物語を味わうってどんなこと?
第一章 物語の基本的な仕組み
第二章 虫の視線で読んでみる
第三章 鳥の視点で読んでみる
第四章 理論を駆使してみる
第五章 能動的な読みの工夫
おわりに
ストーリー・パラドックス
ジョナサン・ゴットシャルの主張は以下の二つにまとめられます。
私たちにとって物語は必要不可欠であるが、場合によっては毒にもなりうる
現代社会の「物語の技術」はすさまじいものがあるので注意が必要
情報としての物語は、複雑で無秩序なさまざまな出来事に秩序と構造を与えて、私たちが把握・理解しやすいようにしてくれます。
たとえば、その人が勧善懲悪な物語ばかりに触れていたら、現実の認識はだいたい「敵と味方」の構図に落とし込まれるでしょう。
言い換えれば、その人が持つ物語のバリエーションが、その人の現実認識のバリエーションに直結するのです。『啓蒙思想2.0』の言い方を借りれば、物語それ自体が一つの「外部足場」であって、それを使って私たちは現実を理解し、どのように反応するのかを決定しているのです。
どれだけ優れた科学知識を持っていても、それをどのように用いるのかまでは「科学」は決めてくれません。それを支えるのは、まさしく「物語」です。
この世に生まれる人と人の対決は、それぞれの価値観を醸成している物語と物語の対決として捉えることもできるでしょう。ミームとしての物語、というわけです。
かといって、私たちは「脱物語」的に生きていくことができません。伊藤計劃の『ハーモニー』は、そうしたことが可能になる世界の可能性を描いていますが、残念ながら現代の科学技術はそうした段階には至っていませんし、至っていたとしても人類がそれを選択すべきなのかは、別途倫理的な議論が必要でしょう。
なんにせよ、現時点では私たちは物語と付き合い続けていくしかありません。では、どうすれば好ましく物語と付きあっていけるのか?
それは、多様な(あるいは多様に)物語を楽しむことです。
物語を楽しむ
本編では部分的にしか言及できなかったので、『物語のカギ』のカギ一覧をリストしておきます。
1. 多義性を知ろう!
2. 多義性から「物語文」を作れ!
3. 内容と語りに分けよう
4. 時間の進行を計れ!
5. 人称ってなに?
6. 焦点化ってなに?
7. 語り手の種類を知ろう!
8. 語り手を信頼するな!
9. ジャンルを意識してみよう
10. 作者の死
11. メタファーを使いこなせ!
12. 書き出しを楽しもう
13. 小道具に着目してみよう
14. 自然描写の想起するイメージを掴め!
15. 五感をフル稼働させよう!
16. 書かれたことをそのまま受け取るべからず!
17. 結末を味わい尽くせ!
18. 言葉を味わおう!
19. 自分の人生を賭して読んでみよう!
20. キーワードを設定してみよう!
21. 二項対立を設定してみよう!
22. 二項対立を打ち破れ!
23. 隠されたものを復元せよ!
24. 他ジャンルを使ってみよう!
25. 作家の伝記を調べてみよう!
26. 比較・変遷をたどれ!
27. 元ネタを探ろう
28. 理論の使い方や歴史を知ろう
29. ケアに気を配ろう
30. 自然の視点に立ってみよう
31. ジェンダーについて考えよう
32. 時代背景を考えよう!
33. 時代背景を考えよう!
34. 暗記してみよう
35. 書き込みをしてみよう
36. 注釈を活用してみよう
37. 再読をしよう
38. 翻訳を読み比べてみよう!
「本の読み方」はあまり教えてもらわないものです。本好きの人が、少しずつ身につけていく「伝統の技法」感が若干あります。しかし、それらは言語化できないわけではありません。上記のように、さまざまな技法=技術が概念化可能です。
一冊の本を読むにも、さまざまな視点・観点の取り方が可能ですし、複数の本を読んで見ることで浮かび上がってくる情報もあります。そうしたことを体験的に知れば、私たちは一回一回の読書において没頭し、ときに理性を置き去りにしてしまったのとしても、そこから帰ってきたときに別様のまなざしをその本に向けることができるようになるでしょう。
でもって、それと同じ態度は、この社会を流れるさまざまな情報(物語)にも適用できるものだと思います。
Share this post