ゲストにtksさんをお迎えして、『私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)』をご紹介頂きました。
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書誌情報
私たちはどう学んでいるのか: 創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書 403)
著者:鈴木宏昭
1958年生まれ。東京大学大学院単位取得退学。博士(教育学)。東京工業大学助手、エジンバラ大学客員研究員を経て、現在青山学院大学教授。認知科学が研究領域であり、特に思考、学習における創発過程の研究を行っている。日本認知科学会(元会長等)、人工知能学会、日本心理学会、Cognitive Science Society各会員.
他の著作
『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス) 』
『類似と思考 改訂版 (ちくま学芸文庫) 』
出版社:筑摩書房
レーベル:ちくまプリマー新書
出版日:2022/6/9
目次:
はじめに
第1章 能力という虚構
第2章 知識は構築される
第3章 上達する
第4章 育つ
第5章 ひらめく
第6章 教育をどう考えるか
概要
本書は私たちがどのように学んでいるのかを認知科学の視点から検討する。キーワードとして挙げられるのは以下の三点。
認知的変化
無意識的なメカニズム
創発
ここでの"認知的変化"はいわゆる「学習」なのだが、本書ではあえてその言葉が使われていない。それは私たちが「学習」と聞いて思い浮かべるイメージが日本の学校教育のイメージと強く重なっているからである。誰かから正解を教えられ、それを覚え、筆記試験でテストされる、といったタイプの学習だけが人間の学びではない。その点に注意を促す意味で本書では認知的変化と呼ばれている。
残り二つの要素は本編でも詳しく紹介されているのでそちらを参照されたい。
ともあれ本書では「認知的変化に働く無意識的なメカニズムを創発という観点」から検討しているのが特徴と言える。いわゆる「勉強法」などよりは抽象度の高い話が展開される。その意味で、少し取っつきにくい側面はあるかもしれない。その分、そのメカニズムや性質に理解すれば、特定の科目や分野に限定されない「学び方」へと目が開かれる。何かを学ぶ前に、まず「学ぶとはどういうことか」を学ぶことは非常に有用だろう。
もちろん、本書が適切に述べるように「知識は伝わらない」。本書の内容が理解できたとしても、その知識が使えるようになったわけではない。それでも「どう考えたらいいのか」という知見は、すぐれて実用的である。言い換えれば、自身の勉強観・学習観を変えることは、具体的に取り組む勉強やその結果についての理解(≒物語・意味づけ)を変えることにつながる。
学習というものを、直線的・固定的・還元的に捉えるのではなく、流動的かつ創発的な視点で捉えることで、日々の学びはよりしなやかになっていくだろう。
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