今回は『限りある時間の使い方』を起点にして、「時間の使い方」について考えてみました。
以下が倉下が作ったメモのScrapboxページです。
◇ブックカタリストBC055用のメモ - 倉下忠憲の発想工房
書誌情報
著者:オリバー・バークマン
オリバー・バークマン は英国の作家兼ジャーナリストであり、以前はガーディアン紙の週刊コラム This Column Will Change Your Life を執筆していました。
翻訳:高橋璃子
『エッセンシャル思考』『エフォートレス思考』『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門』(小社刊)、『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(河出書房新社)など
出版社:かんき出版
発売日:2022年6月22日
目次は、上記のScrapboxページに記載してあります。
限られた時間をどう「使う」のか、という問い
「ファスト映画」や「ファスト教養」など、時間効率を求める姿勢(タイパと言うらしいです)は現代特有の傾向でしょうが、しかし人の人生が限られているという点においては、人類が生まれてからずっと続いている「性質」ではあります。
人生の時間が限られており、しかし達成したいことがたくさんあるならば、「もっとはやく」「もっと多く」となってしまうのは仕方がないのかもしれません。
そうしたとき活躍するのが「タイムマネジメント」です。アメリカでもたくさんの著作が刊行されているでしょうが日本も負けていません。何かしらの時間管理手法を使えば──つまり時間の「使い方」がうまくなれば──、「もっとはやく」「もっとたくさん」を叶えることができる。そんなことを謳う本は枚挙にいとまがありません。
しかし、それは困難な問いから目を背けているだけだと著者であるオリバー・バークマンは述べます。私たちは限られた存在であり、何かを手にすれば別の何かを捨てなければなりません。言い換えれば、そこで私たちは「何を選ぶのか」を問われることになります。
そんな問いに答えるのは簡単ではありませんし、自分で決めてしまえばそこに「責任」のようなものが発生してしまいます(他人のせいにできない、ということです)。だから私たちは、そうした問いと取り組む代わりに、「なんでもできる」という幻想を貸与してくれるノウハウに惹かれてしまうというわけです。
著者はハイデガーを引きながら、そもそもそうした「時間をうまく使う」という考えから脱却することが大事なのではないかと説き、そのためのアプローチを提示してくれます。その考えを端的にまとめるとすれば、人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考えよ、となるでしょう。
私たちは(だいたい)4000週間という人生の時間を「与え」られます。望んだものであるかどうかは別にして私たちの生はそのようにして貸与されたものなのです。これは時間は「自分のもの」ではなく神のものであるといった話ではありません。私という存在そのものが、その時間によって成り立っている、という話です。私=時間。ハイデガー風に言えば現存在となるでしょうか。私は時間としてただそこに在るのです。
そうした込み入った議論はさておくにしても、「人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考える」というある種のコペルニクス的転回は、現代においてせわしなく追い立てられ、結果的に孤独になりがちな私たちにおいて有用なものでしょう。別にたいそうなことをせよ、という話ではありません。貪欲に求めるよりも、自分が為せることを為す方が、きっと気分良く生きていける。それだけの話です。
ちなみに、つい最近書店にいったら『限られた時間を超える方法』(リサ・ブローデリック)という本を見かけました。思わず「そういうとこだぞ」とツッコミを入れてしまいました。
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