収録前の準備として読書メモを作るのが常なのですが、それをやるまではちょっと気楽に構えていました。面白いことはいっぱいあるし、いくつか拾えばOKだろう、くらいに。
しかしいざ実際に作りはじめてみると「とても一時間の収録で手に負える本ではないし、二週間やそこらの準備で太刀打ちできる本でもない」と思い知りました。
よって大きくかじ取りを変更します。本編でもお話していますが「一冊の本を、一年かけてゆっくり読んで行く」というアプローチです。
具体的にそれをどう進めて行くのかは、サポーター向け記事として別途を投稿しますので、ご興味あればサポーター・プランの検討もお願いします(宣伝終わり)。
本書の概要
今回のメモは以下です。
◇ブックカタリストBC057用のメモ - 倉下忠憲の発想工房
本の概要だけなら、比較的簡単にまとめられます。
『人を賢くする道具』の原題は、『Things That Make Us SMART』で、「人を賢くするThings」です。で本文にもありますが、Thingsは人を賢くするだけでなく愚かにもします。人が make した thingsによって 人がある性質に makeされるという循環的な構造がある、と著者は指摘します。
人類の歴史(あるいは文化の発展)は「私たち自身を make する things を makeすること」の繰り返しによって生まれてきている、というのが基盤となる視点で、つまり「小さなクレーンが作れれば、それよりも大きいクレーンを作ることができ、その大きなクレーンが作れれば、さらにそれよりも大きなクレーンが作れる」的に、道具作りが別の道具作りへと接続していく(しかもメタ的に上に登っていける)というのがこうしたthingsの面白いところです。
その上で、著者は人の知的作業を体験型と内省型に分類し、現代の(1993年当時の)テクノロジーは体験型に偏りすぎているのではないか、と指摘します。すると、二つの知的作業のバランスが崩れて、人は「愚かに」なってしまう。でも、それは人間の性質が「愚か」なわけではなく、人の性質をうまくいかせていないテクノロジーやその運用に問題があるのではないか、というのが著者の問題意識です。つまり、「Things That Make Us 体験的」なものが強まっている、ということです。
ここでの「体験的」とは「受動的」「反応的」であり、自分の心の声(これが内省です)が力を持たず、ただ周りの状態(環境)によって自分の行動が決まってしまう状態が含意されています。著者は書いていませんが、そうした状態は資本主義=消費主義社会に利することは間違いないでしょうし、政治がポピュリズムに傾いてしまう契機にもなります。まさにオルテガが言う「大衆」が生まれるわけです。
だからテクノロジーそのものやそれを使うための道具のデザインをしっかり考えようよ、人間の二つの認知をうまく働かせるようにしようと、と主張しているのが本書と言ってよいでしょう。
以上のようにざっとまとめることはできるのですが、各論についてはさらに他の分野と接続できる話が多い点と、ひとつのチャプタに話題が盛りだくさんなことが本書の「読解」を難しくしています。難易度が高いというのではなく、新設のテーマパークに入ったら遊びたいアトラクションがあってどこから行こうか迷ってしまう、的な難しさです。
なので「一年書けてゆっくり本を読んでいこう」プロジェクトが発足した次第です。
話の後半では「最近のノートツール」についても言及していますが、たぶん本書を読めばノートツールや情報整理ツールをどう自分で運用したらいいのかをかなりそもそも論から考え直すことができるかと思います。
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