今回は、オリバー・バークマンの『HELP! 「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案』を取り上げました。
バークマンの本は、『限りある時間の使い方』に続いて二回目です。長く続けていると徐々にこういうかぶりも出てきますね。それもまたよしです。
書誌情報
著:オリバー・バークマン
1975年リヴァプール出身
『限りある時間の使い方』かんき出版 (2022/6/22)
『ネガティブ思考こそ最高のスキル』河出書房新社 (2023/3/25)
原題
Help !How to become slightly happier and get a bit more done
翻訳:下隆全
出版社:河出書房新社
出版日:2023/4/26
2014年8月東邦出版『HELP!最強知的"お助け"本』の改題・復刊
自己啓発は、self-enlightenmentでもあるわけですが、self-helpでもあります。その「help」から本書の原題は来ているのでしょう。
ちなみに、自己啓発でいうと『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』という本を以前取り上げていますが、本書の趣は少し違います。 世の中にある「自己啓発的言説」を、著者の実際の経験も交えながら批評的な切り口でばっさりやるというのが本書のテーマで、そこでは「悪しき自己啓発」がやり玉に上がっています。
一方『自己啓発の罠』は、健全な自己啓発が持つ危険性を指摘するもので(フーコー的なまなざしです)、「悪しき自己啓発」ではないものがやり玉にあがっています。批判の観点が異なるわけです。
とは言え、この二つのまなざしは重ねることができるのかもしれません。
本書のメッセージは原題の副題(slightly happier and get a bit more done)にもあるように、今よりも少しだけ幸福に近づけたり、できることが増えたすることを目指す、というものです。完全な幸福や無限の生産性に近づくものではありません。そういう幻想を追い続けると、結果的に幸福ではなくなってしまう、という観点がさまざま形で語られています。
でもってそれは、「健全な自己啓発」であっても、それを突き詰めてしまえば上記のような「反-幸福」につながってしまうとは言えるでしょう。つまり、あからさまな「悪しき自己啓発」ではないものだったとしても、何もかもを完全にコントロールし、理想的な自我の形に近づいてかなければならない、というような思いに囚わているのだとしたら、それは完全にオーバーコントロールになり、人間が持つ自由さや矛盾性を抑圧する結果になりかねないというわけです。
結果的に、「健全な自己啓発」であってもほどほどに留めておく必要があり、逆に言えばそれがほどほどに留まっている間ならば、人間にとって好ましい効用をもたらしてくれるのではないか、という風に考えられます。
つまり、「悪しき自己啓発」を退ける上でも、「健全な自己啓発」がもたらす危うさと距離を置くためにも、「ほどほどマインドセット」が大切だ、という風に二つのまなざしが重ねられるわけです。
ちなみに本編では上記のような話はせずに、本書から特に面白かった項目を紹介していますので、興味があればぜひ本編をお聴きください。
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